ウサギ(兎)
概要
ウサギ目の小型の哺乳動物の総称。
通常耳が長く、よく飛び跳ねる動物とされています。
表記:兎、兔、うさぎ、rabbit
イメージや象徴
ウサギには、「多産」「生命力」「豊饒」「俊敏」「月」「臆病」「淫欲」などのイメージや象徴的な意味があります。
キリスト教・聖書におけるイメージ
ウサギは両義的なシンボルとして扱われます。
悪い意味としては「淫欲」、良い意味としては「多産」「繁栄」「豊饒」などが挙げられます。
ユダヤ教では、ラクダやイワダヌキと同様にウサギは「4つ足の獣のうち、反芻するが、ひづめが2つに割れていないもの」であるため、「不浄な動物」とみなされています。
これが中世キリスト教の芸術や象徴性に悪いイメージを与えたという説があります。
古来において、ウサギは肉体的に接触することなく繁殖する、または妊娠せずに出産する動物であると考えられたため、聖母マリアの処女懐胎(男女の交わり無しに子を宿す)や、処女性を想起させるシンボルとして扱われる場合もあります。
生命力、繁殖
ウサギは、年中繁殖が可能な動物であり、妊娠期間もわずか1か月間であるため、多くて1年で6回出産することもあります。
出産してすぐに交尾する様子や、一度の出産で6~10匹の子を産む様子などから、ウサギは「強い生命力」や「繁殖力」を象徴する場合があります。
イースター
キリストの復活を祝うイースター祭は、新しい生命や誕生を意味する卵と、多産を意味するウサギがシンボルとなっています。
イースターバニーの由来は諸説あります。
イースターの語源といわれるエオストレ(ゲルマン神話に登場する春と夜明けの女神)がウサギを従えて卵を配ったことが由来とする説。
復活祭の季節の始めに、子供たちが良い子だったか悪い子だったかを裁判官役のウサギが判定していたという、ドイツのルーテル教徒の風習が由来とする説。
足が速い、俊敏
ウサギは俊敏で、生き生きと素早く走り回る様子がイメージされます。
ウサギは興奮したり大喜びすると、飛び跳ねて空中で体をひねる「ビンキー」を行います。
月
ウサギは、月の女神・ヘカテと関連付けられることが多く、「月」の印象があります。
また、日本では「月にはウサギが住んでいて、餅をついている」という伝承・おとぎ話があります。
寂しがり屋
「ウサギは孤独だと死んでしまう」と言われています。
ウサギは、社交的で遊び好きな動物と考えられており、孤独によって(うつ病など他の病を発症し)死亡することもあります。
番(つがい)を亡くしたウサギが数日後に死亡するケースもあります。
狩猟の獲物
ウサギは昔から家畜化されてきましたが、野生のウサギは農地を荒らすことから駆除の対象になっていました。
ウサギの肉は鶏肉に似て食べやすく、ウサギの毛皮は柔らかで珍重されるため、格好の狩猟の対象となりました。
この頃から、死んだウサギが静止画で多く描かれるようになったとされています。
臆病
ピクピクと耳を動かして周りを警戒する様子や、ビクビクと身体を震わせる様子から、ウサギは「臆病」であるかのように扱われる場合があります。
前述にあるように、ウサギは格好の狩猟の対象であったため、「狩られる動物」から転じて「臆病」というイメージが付いた可能性もあります。
擬人化
『不思議の国のアリス』白ウサギ(3月ウサギ、気狂いウサギとも言う)をはじめ、ピーターラビットやミッフィーなど、擬人化されたウサギのキャラクターがあります。
ウサギをベースとした可愛らしいキャラクターが次々と生まれ、近代ではウサギは幅広く愛されるモチーフとなりました。
豆知識
ウサギを出産した女性?メアリー・トフト
イギリス出身のメアリー・トフトは、1726年に医師をだましてウサギを出産したと信じ込ませ、大きな物議を呼びました。
出産を信じた医師もいる一方、信じなかった医師によってメアリーはロンドンに連行され、厳しい監視の下でウサギを出産することになりました。
そこで、メアリーは「ウサギを出産したことは嘘であった」と自白したため、その後に詐欺師として投獄されました。
(のちに無罪放免されイギリスに帰国します。)
メアリーの出産を信じた医師たちは世間から嘲笑されることになり、当時の医療業界全体に大きな衝撃を与えました。
犯罪ストリートギャング「デッド・ラビッツ」
「デッド・ラビッツ」は、1830年代から1850年代にかけて、ロウアー・マンハッタンで活動したアイルランド系アメリカ人の犯罪ストリートギャングです。
デッド・ラビッツという名前は、ギャングの出現中に死んだウサギが部屋の中央に投げ込まれ、これを忌避して一部のメンバーが離脱し、独立したギャングを結成したことに由来しています。
「デッド・ラビッツ」のシンボルは串刺しにされたウサギでした。
「ウサギが死んだ」は妊娠を意味する
「ウサギ検査(フリードマン検査)」は、1931年にアメリカの医師・フリードマンが開発した妊娠判定法で、オスのウサギを使った生物学的検査で尿中のhCG(妊娠中に生成されるホルモン)を測定します。
「女性が妊娠していれば実験に使用したオスのウサギは死ぬ」という誤解や都市伝説が広まり、「ウサギが死んだ」という言葉は、妊娠検査薬が陽性(つまり「妊娠した状態」)であることを表す婉曲表現になりました。
毎月1日に「ウサギ」を繰り返し唱える
英国や北アメリカには、毎月1日に「Rabbit, rabbit, rabbit」(または「Rabbit, rabbit, white rabbit」)と繰り返し唱えると、その1か月間は幸運に恵まれるという迷信があります。
1909年頃から始まり、1990年代に広まった子供のおまじないです。
ウサギが「幸運な動物」であるという一般的なイメージから生まれた迷信だとされています。
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関連作品
ウサギが、モチーフやシンボルとなった作品を紹介します。
聖母子と聖カテリナと羊飼い(絵画)
イタリアの画家ティツィアーノ・ヴェチェッリオの作品(1525-1530年頃)。『ウサギの聖母』とも言います。
背後にアルプス山脈が見えるヴェネツィアの夕暮れ時の田園風景が描かれています。
中央の女性は聖母マリアであり、幼子はイエス・キリストです。
聖母マリアの左手によって白ウサギ(淫欲)が押さえられているため、淫欲の抑制、純潔・処女性の勝利を意味するという解釈があります。
若いウサギ(絵画)
イタリアの画家アルブレヒト・デューラーの作品(1502年頃)。
西洋美術の歴史の中で最も有名な動物の描写の1つと言われています。
この絵画においてウサギの象徴的な意味合いはありませんが、水彩やガッシュで最高度の「本物らしさ」がとことん追求されている名画です。
死んだウサギと狩猟道具(絵画)
フランスの画家ジャン・シメオン・シャルダンの作品(1727年)。
シャルダンの作品は、日常や現実を題材にした写実表現で、17世紀オランダ絵画の影響が顕著に見受けられます。
死んだ獲物の静止画は、収穫や実りの「春」「秋」を象徴します。
ウサギは春に頻繁に見られるため、春を象徴するとされています。
17世紀頃は「狩猟した獲物(トロフィー)の静物画」という絵画の大きなサブジャンルが生まれ、死んだ動物が盛んに描かれました。
三兎(モチーフ)
三兎(または三匹のウサギ)は、東アジア、中東、イングランドのデヴォン地方の教会、ヨーロッパの歴史的なシナゴーグ(ユダヤ教の信者の集会所)など、聖地や宗教的施設に見られる円形のモチーフです。
文献ではっきりと説明されていませんが、三兎のシンボルは多産性や月の周期など、さまざまな象徴的意味があると考えられています。
キリスト教の教会で使用される場合、三位一体の象徴であると考えられますが、その起源と本来の意味は不明であり、これほど各地様々な場所に出現する理由も不明となっています。
死んだウサギに絵を説明する方法(パフォーマンス)
ドイツの現代美術家・彫刻家・教育者・音楽家・社会活動家のヨーゼフ・ボイスのパフォーマンスです。
1965年の個展で、ボイスは自身の頭部にハチミツを塗りって金箔を貼った姿で登場し、ウサギの死体を腕に抱き、壁にかけられた絵をウサギに説明しだしました。
時折ウサギは、ボイスの説明を聞いてまるで頷いているように動かされました。
ボイスは、ウサギの他に、ハチミツ、金などの象徴性もこのパフォーマンスに含めていると述べています。
兎の家(小説)
2022年に公開されたスパニッシュ・ホラー作家たちの短編集。
川の中洲で共食いを繰り返す異常繁殖した白兎たち、
耳から生えてきた肢に身体を乗っ取られた作家、
レストランで供される怪しい肉料理と太古の絶滅動物の目撃譚、
死んだ母親から届いたフェイスブックの友達申請……
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