クジラ(鯨)

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概要

鯨(クジラ)は、哺乳動物であり、海洋に生息する最大の動物です。
体長は最大で30メートル以上にもなり、体重は100トンを超えることもあります。
クジラは、海洋の食物連鎖において頂点捕食者の役割を果たしますが、長年にわたる商業捕鯨により、多くの種が絶滅危惧種となっています。

他言語での表記

英語whaleホェール
イタリア語balenaバレーナ
ドイツ語Walヴァール
フランス語baleineバレーヌ

ことわざや風習

鯨の喧嘩に海老の背が裂ける(ことわざ)

「強者同士の争いで、力の弱い者が巻き込まれ被害を受ける」という意味。

蚕食鯨呑(ことわざ)

力の強い大きな国が、弱く小さい国を侵略していくこと。
蚕が葉の外側から食べていく「蚕食」は端から徐々に侵略していくさまで、クジラが獲物を丸飲みする「鯨呑」は一気に侵略していくさまを表す。

一匹の鯨に七浦賑わう(ことわざ)

「一頭のクジラを捕獲すると多くの漁村が潤う」という意味。

イメージや象徴

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鯨(クジラ)には、「復活」「水神」「包容」「強大な自然の力」などのイメージや象徴的な意味があります。

キリスト教・聖書におけるイメージ

Jonah and the Whale, Pieter Lastman, 1621

ヨナ(『旧約聖書』の中に登場する預言者)を飲み込んだ「巨大な魚」はクジラだったという見解がある。
ヨナが神の命令に背いて船に乗ったところ、嵐によって巨大な魚に飲み込まれてしまう。
ヨナが魚の腹の中で懺悔していると3日後に吐き出された。
3日後に復活したキリストと似ているため、「復活」を意味する場面として好んで描かれた。

「海の怪物」と訳される場合もある。

水神

クジラは世界のさまざまな地域で神聖視されており、日本においても、「漁業の神」「水の神」として神格化されてきた。

日本では、クジラ類を「エビス」と呼び、クジラを恵比寿の化身や仮の姿として神格化してきた。

ベトナムでは、クジラを「カー・オン」(直訳で魚の翁、魚のおじいさん)と呼んで親しんでいる。

包容

海を雄大に泳ぐ姿や、大きな身体から、包容のイメージがある。
また、クジラが「すべてを包み込む母なる海の象徴」「死者の魂を来世に運ぶ神獣(ケートス)」として描写されることもある。

強大な自然の力

クジラは、「強大な自然の力」の象徴とされる場合がある。
特に大型のクジラは、海中で圧倒的な存在感をもち、雄大に泳ぐ様は自然界の強大な力を感じさせる。
また、古来の捕鯨は命がけの漁であり、巨大な海洋生物と海の上で戦うことは、自然そのものや神と対峙しているようだった。

海の悪魔、怪物

クジラに関して次のような逸話がある。
海の真ん中で船が沈んでしまい船員は絶望するが、奇跡的に近くに小島を発見する。船員は小島に上陸でき安堵するが、小島だと思っていたものは実はクジラの背だった。クジラは背に船員を乗せたまま水中に潜り、無慈悲に船員を溺死させる。
この逸話のイメージから、クジラは「海の悪魔」「邪悪なもの」のイメージがある。

他にも、中世ではクジラの口は「地獄の門」、腹の中は「地獄の領域」を表す。

復讐

19世紀前半、太平洋には獰猛な1匹の「白いマッコウクジラ」がいた。悪名高き「モカ・ディック」である。
漁師と100回以上戦い、巨大な身体や尾びれを叩きつけて数々の船を難破させてきた。

このクジラは、ハーマン・メルヴィルの小説『白鯨』(1851年)のモデルにもなっている。
この小説では、白いマッコウクジラ「モビィ・ディック」に片足を食いちぎられた男が、クジラを悪魔の化身とみなし、狂気的なまでに執念深くクジラを追いかけている。
『白鯨』では、クジラは「復讐」の象徴となっている。

畏怖、恐怖

先述の「強大な自然の力」「海の悪魔」「復讐」のイメージから、クジラは「畏怖」の象徴とされる場合がある。
また、クジラは海洋恐怖症(タラソフォビア)の例でも知られる。

海洋恐怖症(タラソフォビア)は、海や湖などに対する恐怖症である。
深海への恐怖、広大な海の空虚さへの恐怖、海洋生物への恐怖、陸地から離れることへの恐怖などが含まれる。
陸地に住むヒトとしての原始的な恐怖や、文化的な影響(神話、災害、パニック映画)などが原因とされる。

海洋恐怖症の一つとして、海洋巨大物恐怖症(メガロハイドロタラソフォビア)がある。
クジラはこの恐怖症の例として用いられることがある。

クジラは、超音波を使って「エコロケーション(反響定位)」と呼ばれる方法で、モノの位置などを調べる。
クジラのエコロケーションは反復的かつパターンの予測が可能な音であり、その発声が人間の歌を連想させるため、「クジラの歌」とも呼ばれる。

「クジラの歌」の印象から、クジラは「音楽的で感受性豊かな生き物」であるかのように扱われることがある。

空飛ぶクジラ

インターネット上に存在する仮想空間(メタバース、XR空間)では、クジラが空を飛ぶ様子が描写されることがある。
神話や古い伝承では確認されておらず、「空飛ぶクジラ」(「宇宙クジラ」とも呼ばれる)が見受けられるようになったのは1960年代以降だと言われている。

1964年にレイチェル・カーソンが発表した『沈黙の春』により世界的に環境問題への関心が高まったことで鯨類の個体数の減少が問題になり、水族館のイルカ人気の上昇なども伴って、「クジラ学」の研究が活発になった。
クジラの生態が解明されていくにつれ、テレビ番組や芸術(絵画、アニメーション、映画など)の分野でもクジラが人気となり、「空飛ぶクジラ」が誕生したと考えられる。

空飛ぶクジラは、「自由」「常識からの解放」「常識外の存在」「神」「(海も空も制覇する)支配者」などの象徴とされる場合がある。

細田守監督のアニメーション映画『時をかける少女』、『サマーウォーズ』、『バケモノの子』『竜とそばかすの姫』などにも、「空を飛ぶクジラ」が共通のモチーフとして登場する。

関連作品

鯨(クジラ)が、モチーフやシンボルとなった作品を紹介します。

オランダの捕鯨(絵画)

Dutch Whaling Scene, Bonaventura Petri, 1645

ボナベンチュラ・ピーテルスの作品。

捕鯨を描いたもので現在確認されている中で、4番目に古い絵画である。

17世紀のオランダ経済における捕鯨の重要性を示している。

マリンアート

ハワイの画家であるクリスチャン・ラッセンの作品。

クジラやイルカなどの海洋生物をきらびやかに描く「マリンアート」と呼ばれる作風で、バブル時代の日本で人気となり、版画やジグソーパズルが流行した。

宇宙を飛ぶクジラのモチーフも見受けられる。

白鯨(小説)

白鯨 上 (岩波文庫)

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『白鯨』は、1851年にアメリカの作家ハーマン・メルヴィルによって書かれた小説で、アメリカ文学の名作として知られています。

物語は、船長は自分の片足を食いちぎった白いクジラ「モビィ・ディック」に復讐するために航海を始める。

この小説は、人間と自然の関係や人間の欲望と野心、運命、復讐などがテーマになっています。

鯨鯢と呼ばれた男: 菅原道真(書籍)

鯨鯢と呼ばれた男: 菅原道真

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天下を狙う鯨鯢(くじら)と揶揄された菅原道真。

無心に学問の道を歩みながら文章博士として学閥抗争をくぐり抜け、ついには宇多天皇の寵臣となり怒涛の出世を果たした。

その栄華と失脚、そして死後タタリ神から天満天神となり、唐へと海を渡ったとされる道真の生涯を詩歌とともに丹念に繙き、よりリアルな人物像に迫った渾身の作。

The Whale Caller(小説)

The Whale Caller: A Novel (English Edition)

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南アフリカの小説家、ザケ・ムダフェの小説で、2006年に出版されました。
海岸の町で孤独な男性と、彼が愛する鯨の物語。

主人公の男性は、南アフリカで孤独な生活を送りながら、鯨の声を模倣することで、鯨を呼び寄せる「クジラ呼び」をしています。
ある日、主人公は町で出会った美しい女性に一目惚れします。

物語は、鯨とのつながり、孤独、愛、嫉妬、喪失など、深いテーマを掲げつつ、美しい言葉で綴られています。

電気じかけのクジラは歌う(小説)

電気じかけのクジラは歌う

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2022年に公開された小説。

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元作曲家の岡部の元に、自殺した天才・名塚から
指をかたどったオブジェと未完の傑作曲が送られてくる。

彼の残したメッセージの意図とは――。
名塚を慕うピアニスト・梨紗とともにその謎を追ううち、
岡部はAI社会の巨大な謎に肉薄していく。

52ヘルツのクジラたち(小説)

52ヘルツのクジラたち

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52ヘルツのクジラとは、他のクジラが聞き取れない高い周波数で鳴く世界で一匹だけのクジラ。
何も届かない、何も届けられない。
そのためこの世で一番孤独だと言われている。

自分の人生を家族に搾取されてきた女性・貴瑚と、母に虐待され「ムシ」と呼ばれる少年。
孤独ゆえ愛を欲し、裏切られてきた彼らが出会い、新たな魂の物語が生まれる――。

裁かれるは善人のみ(映画)

2014年に公開されたロシア映画。
原題は、Левиафан で、リヴァイアサン、現代ではクジラを意味します。

時折クジラが泳ぐ、ロシア北部の海岸沿いの小さな町に住む家族の話です。
神話上の怪物リヴァイアサンを「政府権力」の比喩として用いています。

他にも作中では、聖書からの引用や、聖書と共通するモチーフが登場します。

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