カラス(鴉)

目次

概要

カラスは、主に黒色の羽毛を持ち、強い嘴と足が特徴です。
雑食性で、果物、昆虫、小動物、ゴミなどさまざまなものを食べ、都市部や農村部など人間の生活圏でもよく見かけられます。

表記:からす、烏、鴉、鵶、雅、慈鳥

他言語での表記

英語crow、ravenクロウ、レイブン
イタリア語corvoコルヴォ
スペイン語cuervoクエルボ
ドイツ語Rabe、Kräheラーベ、クレーエ
フランス語corbeauコルボー
ギリシャ語Κοράκιコラキ

イメージや象徴

『考察事典』おすすめの一冊

イメージ・シンボル辞典

神話、聖書、錬金術、紋章、文学などの観点から、「言葉」や「物事」のもつ象徴的意味とイメージをまとめた事典です。

今は忘れられた民間伝承の解説もあり、考察・参照におすすめの一冊です。

カラス(鴉)には、「神の使者」「知能」「生存力」「死」「不吉」「狡猾」「泥棒」などのイメージや象徴的な意味があります。

キリスト教・聖書におけるイメージ

キリスト教・聖書において、カラスは両義的なシンボルです。

聖書のほとんどの翻訳では「ワタリガラス(raven)」が使われており、「カラス(crow)」はあまり使われていません。

神の使者

旧約聖書では、カラスは人々に裁きを告げ、罰や警告のメッセージを伝えるために神から遣わされる存在として登場します。

また、カラスの黒く不気味な外見から、「不吉な予感」や「差し迫った破滅」を象徴するとも考えられています。

ノアの箱舟

カラスは、ノアの箱舟の物語にも登場します。

からすを放ったところ、からすは地の上から水がかわききるまで、あちらこちらへ飛びまわった。
ノアはまた地のおもてから、水がひいたかどうかを見ようと、彼の所から、はとを放ったが、
はとは足の裏をとどめる所が見つからなかったので、箱舟のノアのもとに帰ってきた。水がまだ全地のおもてにあったからである。彼は手を伸べて、これを捕え、箱舟の中の彼のもとに引き入れた。

創世記8:7-9(JCB 聖書)

大洪水によって荒れ果てた地上の様子を調べるために、ノアはハトとカラスを放ちます。
ハトはノアに忠実でオリーブの小枝を咥えて帰ってきましたが、カラスは何度も行ったり来たりして任務に失敗します。

カラスが箱舟に戻らなかった理由は諸説あります。

  • カラスは洪水で溺死した人々の死体を食べていたため戻らなかった。
  • 大洪水のときに交尾したために罰せられたのはカラスだけであり、カラスは不自由な箱舟やノアの元に戻りたくなかった。
  • ノアの元に戻らなかったこともカラスが独立心と機知に富んだ性質を持つことを示唆している。

また、この時なかなか戻らないカラスに対して、腹を立てた神々がカラスを黒くしたという逸話もあります。

神の配慮と恵み

エリヤは行って、主の言葉のとおりにした。すなわち行って、ヨルダンの東にあるケリテ川のほとりに住んだ。
すると、からすが朝ごとに彼の所にパンと肉を運び、また夕ごとにパンと肉を運んできた。そして彼はその川の水を飲んだ。

王記上17:5-6(JCB 聖書)
Saints Anthony Abbot and Paul the Hermit, Diego Velázquez, 1634

カラスは、預言者エリヤに食物を与えるよう神に命じられています。

そのため、カラスは「神の配慮」と「神の恵み」の象徴とみなされています。

このように、カラスは従順に献身的に命令に従う「神の使者」として重要な役割を果たしています。

日本におけるイメージ

八咫烏に導かれる神武天皇(安達吟光画『神武天皇東征之図』)

日本においてもカラスは、さまざまな象徴的意味を持ちます。

日本神話には三本足のカラスが登場します。
三本足のカラスは八咫烏(やたがらす)と言い、導きの神として神武天皇を大和へ案内したとされます。
八咫烏は、「導き」や「太陽の化身」として信仰されています。
現代では、八咫烏は日本サッカー協会のシンボルとしても使われます。

また、カラスの羽色から「烏の濡羽色(からすのぬればいろ)」という日本の伝統色があります。
「烏の濡羽色」「濡烏(ぬれがらす)」「烏羽(からすば)」は、艶やかで美しい黒髪の形容に用いられます。

一方で、カラスの鳴き声は不吉な前兆とされ「死の知らせ」と考えられたり、カラスが水浴びをすると雨が降る(悪天候になる)という迷信もあります。

神の使い

18世紀のアイスランド語の写本

さまざまな神話や文化において、カラスは「神の使い」を象徴します。

ギリシャ神話では、予言や太陽の神アポロンが恋人コロニスの不貞を確認するために白いカラスを送り、その報告に激怒してカラスの羽を黒くしました。
北欧神話では、主神オーディンがフギン(思考)とムニン(記憶)という二羽のワタリガラスを連れ、毎日ミッドガルドの情報を集めさせています。
アイルランドを建国したバイキングは北欧出身であり、北欧神話の主神オーディンの象徴であるカラスを旗印にしました。

このように、カラスは多くの文化で神聖な存在とされ、神々の使者やメッセンジャーとして重要な役割を果たしてきました。

太陽

まざまな神話や文化において、カラスは「太陽」を象徴しています。

ギリシャ神話では、太陽神アポロンがカラスを使者として用いました。
日本の神話では、八咫烏が太陽の化身とされ、神聖な存在として崇められています。
古代エジプトでは、天空と太陽の神ホルスが太陽の精気を集めてカラスの姿になったとも考えられており、ホルス神の象徴としてのカラスの存在が確認されます。

また、イヌイットにとってカラスは日光をもたらした生き物であり、神聖化されています。

このように、カラスは多くの文化で「太陽」を象徴する神聖な存在として重要視されています。

知能、適応力

カラスは非常に知的な鳥として知られており、複雑な問題解決能力や道具の使用、社会的な行動などで注目されています。
カラスには、人間の6~8歳程度の知能があると考えられています。
このため、カラスは「知能」や「適応力」の象徴としても解釈されます。

生存力

カラスは異なる環境下や厳しい条件下でも生存できることから、「生存力」を象徴する存在とされます。
この生存力から、カラスは霊的な成長や変容のメタファーとしても用いられることがあります。

他にも、「抗うもの」「食らいつくもの」「貪欲に生き抜くもの」などタフで勇敢、打たれ強いもののメタファーとして用いられることもあります。

死、不吉

The Apotheosis of War, Vasily Vereshchagin, 1871

カラスは多くの文化や神話において「死」や「不吉」を象徴する存在として広く認識されています。
黒いカラスはその不吉な外見から「死」を連想させ、ゴミや屍を貪る姿が人々に忌み嫌われています。
また、カラスに見つめられることやカラスの鳴き声を聞くことなどは、不幸や災厄をもたらすと信じられています。

ロンドン塔の伝説では、塔からカラスがいなくなると王国が滅びると信じられています。

ロンドン塔のカラス

イギリスには「ロンドン塔のワタリガラス」という伝説があります。
チャールズ2世の時代から続くこの迷信によると、カラスがいなくなると王国は崩壊し大英帝国も滅亡すると信じられています。
ロンドン塔は1078年にウィリアム1世によって建てられ、歴史ある建物の中でカラスが飼育されています。
17世紀半ばのペストやロンドン大火の際、死体を啄むカラスが目立つようになり、天文台長が空が観測できないためカラスを減らすように懇願しましたが、チャールズ2世は天文台を移すように命じました。
19世紀末には、カラスに変えられたアーサー王の伝説や童謡が混ざり、現在のロンドン塔のカラス伝説が形成されました。
カラスは専任の「レイヴンマスター」によって大切に飼育されており、彼らが塔の敷地内で遠くに行かないように風切り羽が切られています。

狡猾、泥棒

カラスには「狡猾」や「泥棒」のイメージが根強くあり、その象徴的な意味も多くの文化で見られます。

カラスはキラキラしたものを好む習性があり、しばしば光る物を盗むとされています。
また、食料を盗んだり、農作物を荒らすこともあります。
さらに、ゴミを漁る姿が不潔で不吉な印象を与え、非常に知恵がありずる賢い鳥としても知られています。

カラスのこうした行動や特徴から、「狡猾」や「泥棒」といったネガティブなイメージが生まれ、象徴として残っています。

饒舌

物語において、カラスがおじゃべりなキャラクターとして登場することがあります。

カラスは非常に社交的で多様な鳴き声を持ち、身振りも使って複雑なコミュニケーションを行います。
カラス同士が会話しているような様子や、その鳴き声を人々が日常的に聞いていることなどから、カラスに「饒舌」なイメージが定着したと考えられます。

また、ずる賢いカラスは「詭弁」「口達者」「騙す」などネガティブなおしゃべりなイメージを付けられることもあります。

慈しみ

カラスは成長すると親鳥に餌を運んで慈しむことから「慈鳥」という異名もあります。
このカラスの姿から「烏に反哺の孝あり」という「鳥は親を慈しみ孝行する(烏さえ親の恩に報いるのだから、まして人は孝行せねばならない)」という意味の故事成語が生まれました。

魂を導く

一部の文化において、カラスは霊界と現実世界をつなぐ存在とされ、死者の魂を導く役割を果たすと信じられています。

関連作品

カラス(鴉)が、モチーフやシンボルとなった作品を紹介します。

The Tree of Crows(絵画)

The Tree of Crows, Caspar David Friedrich, circa 1822

ドイツのロマン派の画家カスパー・ダーヴィト・フリードリヒの作品(1822年頃)。

夕暮れを背景に、ねじれた樫の木とカラスの群れを描いています。

前景のねじれた樫の木や切り倒された幹は死を表し、遠くの穏やかな夕焼け空は来世での救済の約束を意味していると考えられています。

この絵画からは「陰鬱」「絶望」「憧れ」「救済への期待」などを感じられます。

Anguish(絵画)

Anguish, August Friedrich Schenk, 1876-1878

動物画を得意としたドイツの画家アウグスト・フリードリヒ・シェンクの作品(1876-1878年)。
《Anguish》は、日本では《苦しみ》《苦悩》と訳されます。

雪の中で子羊の死を嘆く母羊と、母羊を取り囲む恐ろしいカラスの群れが描かれています。

この絵画からは、母羊の苦境や感情、カラスの残忍さが痛烈に伝わってきます。

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ときに禍々しく、ときに知恵や幸運の象徴ともされるカラス。

神秘的で美しいカラスをビジュアルと引用、解説で紹介します。

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