人魚
概要
人魚は、伝説や文学で登場する、上半身が女性の人間で、下半身が魚の姿を持つ架空の生物です。
マーメイドは「海(seaの古英語meme)」と「メイド」の合成語です。
男性の人魚は「マーマン」、人魚族を「マーピープル」や「マーフォーク」と呼ばれます。
イメージや象徴
『考察事典』おすすめの一冊
日本全国に伝わる言い伝えや迷信を収集、項目ごとに分類した事典です。
「火事の前にネズミは逃げ出す」「桃を食って川に行くと河童にひかれる」など、日本全国に伝わる俗信を徹底収集した一冊です。
人魚には、「人間との恋」「美貌」「歌声」「不老不死」「海の厄災」「二面性」などのイメージや象徴的な意味があります。
人魚姫
ハンス・クリスチャン・アンデルセンの『人魚姫』(1836 年)が有名です。
『リトル・マーメイド』をはじめ、「人魚姫」は芸術や文学において人気のテーマとなっています。
人間との恋
人魚と人間男性の恋
人魚男と人間女性の恋
近年の「人魚姫」がテーマの物語において、人魚が人間の男に恋をすることがあります。
昔の物語や民間伝承では、人間の男が人魚の持ち物を隠して、人魚を無理やり自分の妻にすることがありました。
スウェーデンの民間伝承では、人魚の男が人間の女性をさらって妻とします。
デンマークの『アウネーテと人魚』では、人魚男と人間の女性が夫婦となり子供を産みますが、女性は海の家族を捨てて地上に戻ります。
海と陸は別世界です。
この大きな溝を乗り越える人魚と人間のラブストーリーは、異世界への好奇心が溢れる冒険譚や、深い愛で一途に思い続ける純愛、切ない結末で終わる悲恋など様々です。
永遠の美しさ、若さ
人間に近い容姿で描かれる人魚は、大変美しく、美の化身とされることがあります。
ただし一方で、より魚に近い容姿で描かれる人魚の中には、醜い怪物のような人魚もいます。
長寿、不老不死
「永遠の美しさや若さをもつ」という人魚のイメージからか、人魚を「非常に長命な生き物」とする場合があります。
また、「人魚の肉を食べると不老不死になる」という伝説は、日本の『八百比丘尼伝説』(西暦480年頃・古墳時代中期)が発祥であるとされています。
八百比丘尼は人魚の肉を食べたことで1000年の寿命を得たとされ、年をとっても娘のような白い肌をしていたという伝説が残っています。
美しい歌声
ギリシャ神話のセイレーンの影響か、「人魚は美しい歌声をもつ」とする場合があります。
また、その歌には魔力があり、聞く人間を虜にする場合もあります。
予知、予言
スカンジナビア、アイスランド、日本などでは、人魚が予知や予言をする伝承が残っています。
イギリス人作家であるジョージ・ボローが訳した歌集『人魚の予言 – ダグマー女王に関連するその他の歌』では、王に捕らわれた人魚が「女王は王子を3人産む」と予言します。
また、『ニーベルンゲンの歌』第25歌章にも予言の力をもった人魚が二人登場します。
海の厄災
人魚は、海の厄災(嵐、荒波、難破、溺死など)と関連付けられることがあります。
その場合、「人魚の歌を聞こえると嵐になる」「歌と容姿で船員を誘惑して海に引きずり込む」など不吉な存在とされています。
性的快楽への誘惑
人魚は「美と愛欲の女神・ウェヌス(ヴィーナス)※」をモデルにして作られたという説があります。
人魚とともに描写されることが多い「櫛」や「手鏡」もウェヌスの持物です。
※ウェヌスはもとはローマ神話の菜園の神であったが、のちにギリシャ神話の・アフロディテと同一視された。
持物(じもつ・じぶつ)とは
西洋美術におけるアトリビュート(attribute)のこと。
特定の神や聖人を象徴する、あるいはそれらを身に着けた姿で描かれたアイテムや動物、あるいは特定の行為や場面を表すものを指す。
具体的には、キリスト教の聖人たちがよく持っている様々なアイテム(聖具)が代表的。
また、人魚(おもにセイレーン)は美しい容姿と歌声で男性を誘惑することから、「男を破滅させる魔性の女(ファム・ファタール)」とされる場合があります。
そのため、人魚を「快楽」や「誘惑」の象徴とし、櫛や手鏡を「自惚れ」や「虚栄」の象徴とする場合があります。
二面性、危険な性質
人魚は難破した船員を救出する慈愛の生き物として描かれる一方、魅惑的で危険な生き物として描かれることもあり、二面性をもちます。
残忍で凶暴な性格で人を襲う人魚や、人間の男が自分を愛してくれないと殺してしまう人魚もいます。
紋章、看板
人魚は、紋章やロゴデザインなどで大変人気のモチーフです。
ワルシャワの国章は「剣と盾を持った人魚」で、イギリス海軍の艦船16隻は「HMSマーメイド」と名付けられました。
また、人魚を「誘惑」の象徴とし「客を魅了するように」と願いを込めて、飲食店などの看板に人魚を使うことが流行した時代もありました。
人魚の看板で有名な例は、シェイクスピアが愛した酒場の「人魚亭」や、スターバックスのロゴの人魚(セイレーン)です。
伝承や創作の人魚
セイレーン
ギリシア神話に登場する海の怪物。
美しい歌声で船乗りたちを誘惑し、その歌声に引き寄せられた船は岩礁に衝突して難破するといわれています。
船乗りや探検家にとって危険な存在とされています。
ウンディーネ
ドイツの水の精霊。人魚ではない。
アンデルセンの『人魚姫』は、フリードリヒ・フーケの『ウンディーネ』に影響を受けて作られたといわれています。
騎士フルトブラントは、漁師の小屋の近くでウンディーネという不思議な少女と出会い、恋に落ちます。
セルキー
スコットランドの民間伝承に登場する生物。
セルキーは「アザラシの民」を意味します。
海ではアザラシとともに暮らし、陸に上がる時にアザラシの皮を脱いで人間の姿になります。
アザラシの皮を人間に盗まれると海に戻れなくなるため、セルキーは皮を盗んだ人間と結婚することになります。
地上で結婚生活を続けてもセルキーは海への憧れを捨てられず、アザラシの皮を見つけるとセルキーはすぐに海に戻ってしまい、人間にとっては悲しい結末となる物語が多いです。
ローレライ
ドイツの民間伝承に登場する精霊。
ローレライはドイツにあるライン渓谷の一部を指す名前で、海難事故が多発する場所として有名のため、様々な伝承やストーリーが生まれました。
「ローレライはもとは人間の女性で、恋人に裏切られて川に身を投げて精霊となった」
「精霊となったローレライは漁師を誘惑して破滅させる」
「ローレライが崖の上で歌いながら金髪を櫛でとかしていると、その美しさに気を引かれた船員が船を岩に激突させて溺死してしまう」
など、様々な物語があります。
メロウ
アイルランドの民間伝承に登場する人魚。
控えめで、愛情深く、穏やかな性格で、女性のメロウは人魚に似た美しい姿をしています。
一方で、男性のメロウは緑色の髪と歯、赤い鼻をもち、ずんぐりとした醜い姿であるとされています。
女性メロウと人間男性の間に生まれた子は、足に鱗があり、手には小さな水かきがあります。
メリュジーヌ
ヨーロッパの民間伝承に登場する精霊。下半身がヘビまたは魚の女性で、メリュジーナともいう。
メリュジーヌの語源はラテン語の「豊かな旋律、音楽的に楽しい」を意味する言葉など諸説あります。
最も有名なメリュジーヌは、フランスの作家ジャン・ダラスの『ロマン・ド・メリュジーヌ(メリュジーヌ物語)』(1392年~1394年頃)です。
毎週土曜日に下半身がヘビになる呪いをかけられたメリュジーヌは、「土曜日は私を探さないで」という約束をさせた上で貴族のレイモンダン・リュジニャンと結婚します。
それからメリュジーヌはリュジニャン家に幸福と繁栄をもたらしますが、夫はメリュジーヌの不貞を疑い、土曜日にこっそりと入浴中のメリュジーヌを覗き見します。
そこで夫や息子たちに呪いの姿を知られたメリュジーヌは、家族の前から逃げ去ってしまいます。
メリュジーヌの物語はヨーロッパ各地にあり、キスによって呪いが解ける蛇乙女のメリュジーヌなど、様々存在します。
関連作品
人魚が、モチーフやシンボルとなった作品を紹介します。
人魚(絵画)
イタリアの画家・ジョン・ウィリアム・ウォーターハウスの作品。
最も有名な「人魚の絵画」として知られている。
ウォーターハウスは、イギリスの詩人・アルフレッド・テニスンの詩『人魚』(1830年)にインスピレーションを受けつつ、人魚を「魅力的で孤独な存在」として描いた。
人魚のそばにある真珠は死んだ船員の涙から作られたと考察され、この人魚は「男を破滅させる魔性の女(ファム・ファタール)」であると印象付けられた。
冷たさを感じさせる入り江に一人座り、物憂げな表情で髪をとかす人魚の姿は、美しくも寂しさを感じさせる。
ユリシーズとセイレーン(絵画)
イギリスの画家・ハーバート・ジェームズ・ドレイパーの作品。
ホーマーの叙事詩『オデュッセイア』の場面で、マストに括り付けられた男性(ユリシーズ)が、セイレーンの誘惑に苦しみながらも惹かれる様子を描いている。
人魚は船に上がると魚の尾が消え、人間の足になる。
見捨てられた人魚男(詩)
イギリスの詩人・マシュー・アーノルドの作品。
海の王である人魚男(マーマン)が人間の女性と結婚し、子供たちと海で幸せに暮らしていた。
しかし妻は地上へ帰ってしまう。
人魚男が迎えに行っても、子供たちが母親を恋しがって呼んでも、妻は無視した。
見捨てられた人魚男は、海の底で妻の裏切りを哀しむ。
赤いろうそくと人魚(童話)
1921年に発表された小川未明の童話。
パブリックドメインで全文公開されている。
北の暗い海に住む身重の人魚は、せめて我が子は美しく賑やかな街で幸せに暮らしてほしいと願っていた。
そこで人魚は、二度と会えなくなると知りながら、我が子を人間が住む地上で産むことにする。
地上で産まれた人魚の赤ん坊は、ろうそく屋の老夫婦に拾われ、大切に育てられるが…。
Part of Your World(楽曲)
作曲家のアラン・メンケンと、作詞家のハワード・アッシュマンの作品。
人魚姫のアリエルが、地上への憧れの気持ちを歌っている。
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