鏡(ミラー)

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概要

「鏡」は、光を反射させる平らな表面を持つ物体で、主にガラスや金属などが用いられます。
個人の外見の確認や環境の観察などに広く利用されます。

表記:かがみ、ミラー、mirror

イメージや象徴

『考察事典』おすすめの一冊

イメージ・シンボル辞典

神話、聖書、錬金術、紋章、文学などの観点から、「言葉」や「物事」のもつ象徴的意味とイメージをまとめた事典です。

今は忘れられた民間伝承の解説もあり、考察・参照におすすめの一冊です。

鏡には、「美」「虚栄」「真実」「二面性」「過去と未来」などのイメージや象徴的な意味があります。

美、外見

鏡は「美」や「外見」に関連する象徴としてよく使われます。
人は鏡を通して容姿や服装を確認し、整え、美しさを求めます。

虚栄

鏡は悪徳である「虚栄」を象徴することがあります。
鏡によって外見への過度な執着が生まれ、他者からの評価に敏感になることが、「虚栄」のイメージと結びついています。

幻想、理想

鏡は「幻想」や「理想」を表すシンボルとされることがあります。
鏡に映るものが現実とは異なり、何か素晴らしいものが見えてくるものとして扱われる場合あります。

例えば、実際の自分は子供であるのに対して、鏡に映る自分は立派な大人に成長した姿をしているというように、鏡が幻想や理想を映し出すものとして機能する場合があります。

真実

鏡は像を忠実に反映する性質があるため、「真実」を象徴することがあります。

隠れた真実と秘密

鏡は時に隠れた真実や秘密を示唆するものとして描かれることがあります。
表面的なものの裏に潜む真実や秘められた事実を鏡が反映するといったイメージがあります。
鏡が秘密を暴くきっかけや、偽物や化け物の正体を見破るきっかけとなる場合があります。

二面性

鏡は「二面性」を表現するために使われることがあります。
鏡に映るものは現実とは異なり、対照的な要素を鏡に示すことで、相反する概念や感情を象徴することがあります。

例えば、現実の人は笑顔であるのに対して、鏡に映った顔は悲しそうな顔をしているといった、外見(楽しそう)と内面(悲しい)の二面性を象徴することがあります。

内面の探求

一方で、鏡は外見だけでなく内面も映し出すという概念があります。
内省や精神的な探求、自己の深層を覗き見る手段として捉えられ、「内面の探求」を象徴することがあります。

過去と未来

鏡は過去や未来との関連性を象徴することもあります。
過去の出来事を振り返る際や未来を想像する際に鏡が使われることで、時間の経過や変化を示すことがあります。

魔法や異世界

ファンタジー文学や映画などでは、鏡が異世界への扉や魔法のアイテムとして登場することがあります。
鏡を通して、異なる次元や異世界に行くことができるというイメージがあります。

死後の世界、冥界

一部の神話や信仰では、鏡は死後の世界や冥界と関連があります。
死者の魂が鏡に映る、鏡が自分の死に姿を映すなど、死に関連する象徴となることがあります。

武器

ファンタジーのや創作上の世界において、鏡が強力な武器として活躍することがあります。
鏡を使って魔法を反射させたり、鏡を特別な儀式に使用したりすることで、敵に打ち勝つことがあります。

鏡と芸術

芸術と鏡には密接な関係があります。

ルネサンス最初の建築家であるフィリッポ・ブルネレスキは鏡を用いて「透視図法」を発見しました。
レオナルド・ダ・ヴィンチは鏡を「画家の巨匠」と呼び、実際の物体を反映させて絵と比較することで正確な表現を追求しました。

画家たちが自画像を描くために鏡は必須であり、アルブレヒト・デューラー、レンブラント・ファン・レイン、ファン・ゴッホなども鏡の中の自分を見つめながら自画像を描き上げました。

関連作品

鏡が、モチーフやシンボルとなった作品を紹介します。

アルノルフィーニ夫妻像(絵画)

Arnolfini Wedding Portrait, Jan Van Eyck, 1434

フランドルの画家ヤン・ファン・エイクの作品(1434年)。

「鏡と絵画」といえば真っ先に挙げられる作品の一つです。

背面の壁に掛けられた鏡には、アルノルフィーニ夫妻の背中と、2人の男性が映し出されています。
2人の男性のうち、手前の赤い服の男性はヤン・ファン・エイク自身だと考えられています。

作品にこめられた寓意性や、鏡に映し出される反転した情景を取り入れるなど、西洋美術史上でも極めて独創的で複雑な構成を持った作品です。

ラス・メニーナス(絵画)

The Maids of Honour, Diego Velázquez, 1656 – 1657

スペインの画家ディエゴ・ベラスケスの作品(1656-1657年)。

こちらの絵画にも、面の壁に鏡が掛けられており、先ほどのヤン・ファン・エイクの絵画の影響を受けて制作されたものだと考えられています。

こちらの鏡には、幼いマルガリータ王女を見つめる王と王妃の上半身が映し出されています。
鏡の位置、鏡に映った国王夫妻の位置、鑑賞者の視線の位置を考えると、絵画の鑑賞者がまるで国王夫妻と同じ立場(幼い王女を外野から見つめる立場)になったかのように錯覚させます。

ハンス・ブルクマイアーと妻アンナ(絵画)

Der Maler Hans Burgkmair und seine Frau Anna, geb. Allerlai, Lukas Furtenagel, 1529

ドイツの画家であり版画家でもあるハンス・ブルクマイアーの作品(1529年)。

妻アンナが持つ凸面鏡には、しゃれこうべが2つ映し出されており、鏡には “Erken dich selbs(汝自身を知れ)” という文字が刻まれています。

鏡に映し出されているしゃれこうべは、近い未来に訪れるであろうブルクマイアー老夫妻の死を表しています。
絵画の右上に記された文章 “Solche Gestalt vnser baider was, im Spiegel aber nix dan das(私たちの姿がそこに映っていた、それ以外は何もない*自動翻訳)” からは、二人が冷静に死と向き合っていることを感じさせます。

鏡を見るヴィーナス(絵画)

Venus with a Mirror, Tiziano Vecelli, 1555
Rokeby Venus, Diego Velázquez, 1647

イタリアの巨匠画家ティツィアーノ・ヴェチェッリオの『鏡を見るヴィーナス』、スペイン黄金時代の画家ディエゴ・ベラスケス『鏡のヴィーナス』などのように、天使が持った鏡を見つめる女神ヴィーナスが描かれることがあります。

鏡とヴィーナスには密接な関係があり、鏡はヴィーナスの持物とされており、ヴィーナスのシンボル「♀」も手鏡であると解釈されています。

持物(じもつ・じぶつ)とは
西洋美術におけるアトリビュート(attribute)のこと。
特定の神や聖人を象徴する、あるいはそれらを身に着けた姿で描かれたアイテムや動物、あるいは特定の行為や場面を表すものを指す。
具体的には、キリスト教の聖人たちがよく持っている様々なアイテム(聖具)が代表的。

中世の西洋美術において「鏡を見るヴィーナス」には長い歴史があり、ヴィーナスは女性の悪徳(虚栄心と贅沢)を体現するものとして否定的な意味で描かれました。

ルネ・マルグリットと鏡(絵画)

ルネ・マグリット《不許複製》

ルネ・マグリット《不許複製》

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ベルギーのシュルレアリスム画家ルネ・マルグリット(1898-1967年)が残した作品の中には、鏡に関する絵画がいくつかあります。
※パブリックドメインではないため、Amazonの画像から引用します。

『不許複製』または『複製禁止』は、マルグリットのパトロンであったエドワード・ジェイムズの肖像画である考えられています。
男性の横にある本は正しく鏡に映し出されているのにも関わらず、男性は(鏡に顔が映し出されるはずが)後ろ姿が映し出されています。

この象徴的な構図は、のちにCDジャケット、小説、映画などで言及され(あるいはシーンとして取り入れられ)ました。

最近では、2014年のドイツのスリラー映画「Who Am I」にもこの構図が採用されたそうです。

シャイニング(映画)

1980年に公開されたホラー映画です。

『シャイニング』には、鏡を使ったシーンがいくつかあります。
主人公・ジャックが幽霊に遭遇するシーンでは、鏡があるそうです。

ブラック・スワン(映画)

2010年に公開されたサイコスリラー映画です。

鏡が頻繁に取り入れられており、特に「割れた鏡」が目立ちます。
清らかな白鳥と官能的な黒鳥の二役を演じることになったバレリーナのニナは、過剰なストレスにより幻覚や妄想が増え、ストーリー終盤では割れた鏡の破片で ○○*ネタバレ防止 を刺してしまいます。

鏡の中は日曜日(小説)

鏡の中は日曜日

鏡の中は日曜日

殊能将之
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発売日: 2005/06/15
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2005年に公開された小説です。

梵貝荘(ぼんばいそう)と呼ばれる法螺貝様の異形の館。
マラルメを研究する館の主・瑞門龍司郎(ずいもんりゅうしろう)が主催する「火曜会」の夜、奇妙な殺人事件が発生する。
事件は、名探偵の活躍により解決するが、年を経た後、再調査が現代の名探偵・石動戯作に持ち込まれる。

鏡の国(小説)

鏡の国

鏡の国

岡崎 琢磨
1,710円(05/03 03:04時点)
発売日: 2023/09/12
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2023年に公開された小説です。

大御所ミステリー作家・室見響子の遺稿が見つかった。
それは彼女が小説家になる前に書いた『鏡の国』という私小説を、死の直前に手直ししたものだった。

「室見響子、最後の本」として出版の準備が進んでいたところ、担当編集者が著作権継承者である響子の姪を訪ね、突然こう告げる。
「『鏡の国』には、削除されたエピソードがあると思います」――。

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