サクランボ(桜桃)

目次

概要

桜桃(おうとう)とも言う。

歴史が古く、先史以前から食されていた。
古代ローマ時代に栽培が広まり、日本でも明治以降に栽培されるようになった。

「桜の子供」「丸い実が坊主頭に似ている」ことから「桜の坊(さくらのぼう)」とも呼ばれ、サクランボと言われるようになったという説がある。

他言語での表記

英語cherryチェリー
スペイン語cerezaセレサ
中国語樱桃yīng táo
ドイツ語Kirscheキルシュェ
フランス語ceriseセリーズ

ことわざや風習

Life is just a bowl of cherries.(ことわざ)

(直訳)人生はお椀に盛られたサクランボ。
「人生はお椀に盛られたサクランボのように楽しい」という意味。

Never make two bites of a cherry(ことわざ)

(直訳)一つのサクランボは、二口にして食べるな。
1回でできることを2回に分けて行うことを指し、「ぐずぐずする」という意味。

太宰治の墓にサクランボを押し込む(風習)

太宰治が亡くなった日を「桜桃忌」という。
死の直前に執筆された作品『桜桃』が由来。

毎年、多くのファンが墓に集まり、太宰を偲ぶ。
当初は、太宰と直接親交のあった人々がサクランボを食べながら酒を酌み交わし、彼を偲んだ会とされている。

いつからサクランボを押し込むようになったかは不明。

恋のまじない(風習)

「ピンク色のペンでサクランボの実を2つ描き、実の部分に自分の名前と相手の名前を書くと恋が叶う」など、サクランボと恋を関連付けたまじないが多い。

イメージや象徴

『考察事典』おすすめの一冊

日本俗信辞典

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「火事の前にネズミは逃げ出す」「桃を食って川に行くと河童にひかれる」など、日本全国に伝わる俗信を徹底収集した一冊です。

サクランボは、「幸運」「豊穣」「楽園の果実」「少女」などのイメージや象徴的な意味があります。

一般的なイメージ

たくさんの国や文化で、サクランボは幸運や豊かさの象徴として親しまれている。
また、甘くてみずみずしい様子から、若さや美しさ、無邪気さを連想させることもある。

キリスト教・聖書におけるイメージ

甘美で「楽園の果実」とされる。
一方で、実の赤さが血を連想させ、キリストの受難や死を暗示する場合もある。

有名なもので、「マリアがサクランボを摘もうとしたところ枝が高くて届かなかったため、キリストがお腹の中から木に話しかけて枝を低くさせた」という話が残っている。

Tiziano Vecelli,”The Madonna of the Cherries(1515)”

《サクランボの聖母》は、ティツィアーノ・ヴェチェッリオによる絵画で、幼いイエスがマリアにサクランボを差し出している。

マリア、幼いイエス、幼い洗礼者ヨハネの他に、後ろにヨセフ(マリアの夫・イエスの養父)と祭司ザカリアが描かれている。

少女・処女のイメージ

John Russell,”Small Girl Presenting Cherries(1780)”

美術のモチーフとして、サクランボを摘む少女や、サクランボに関連するものがよく登場する。

フレデリック・レイトン、シャルル・アマブル・ルノワール、ジョン・エヴァレット・ミレイらは、思春期の少女の穢れのない陶器肌と深紅のサクランボを一緒に描いている。

熟れる前にサクランボを収穫してしまうように、うぶで無垢な少女には期限があると当時は考えられていた。

通説では、「サクランボの実が血のように赤く、処女喪失時に出る血に似ているから、処女の意味を持つようになった」と言われている。
「サクランボ=処女」のイメージが一般的に広まったのは、19世紀後半になってから。
1889年のオックスフォード英語辞典で、サクランボが処女を象徴するものとして初めて言及された。

また、処女から派生して童貞(チェリーボーイ)を指すようになったという説もある。

性的描写の婉曲表現

サクランボは、文学において性的描写の婉曲表現で用いられてきた。
特に16世紀から17世紀のヨーロッパで見られた表現で、当時は性や肉欲について直接的に言葉にすることはタブーとされていたため、サクランボを用いて間接的に表現していたと考えられる。

例えば、イギリスの抒情詩人ジョシュア・シルベスターとロバート・ヘリックは、複数の作品で “cherrielets”(サクランボ)」を “niplets” や “teates” (どちらも「乳首」の意)に例えている。

また、フランスの作家ミシェル・ミロとジャン・ランジュは、エロティック小説 “L’Escole des Filles“「ヴィーナスの学園」(1655年)で、サクランボを陰茎の先端に例えている。

現代では、洋楽の歌詞において、サクランボが性的描写や処女を表す場合がある。

多くの場合、”cherry pop” は、処女喪失や性交を意味する。

ただし、単純にサクランボ味の炭酸飲料を指す場合もある。

関連作品

サクランボが、モチーフやシンボルとなった作品を紹介します。

The Cherry Orchard(戯曲)

The Cherry Orchard

The Cherry Orchard

Chekhov, Anton
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ロシアの劇作家アントン・チェーホフによる最後の戯曲(1904年頃)。
借金の返済のため、愛するサクランボの果樹園を売らなければならない一家を描いている。
社会の変化、喪失感、時代の移り変わりといったテーマを探求している。

りこうなさくらんぼ(詩)

金子みすゞ童謡全集

金子みすゞ童謡全集

金子みすゞ
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金子みすゞの詩。

青い実を食べて鳥が腹を壊さないように、子供たちが取り合って喧嘩しないように、葉に隠れ、落ちないようにするサクランボ。
育ててくれた百姓に摘み取ってもらうため、サクランボはあれこれ気を回す。
しかしその結果、サクランボは夜中に落ちてしまい、百姓にも気づいてもらえず最後には靴で踏みつけられてしまう。

さくらんぼ(楽曲)

大塚愛の曲(2004年)。

「あたしさくらんぼ」の歌詞に始まり、「中身がいっぱいつまった 甘い甘いもの」と例えている。

また、恋人が寄り添う姿をサクランボに例え、1つの房で繋がる2つの実のように、「ずっとそばにいたい」と綴っている。

チェリー・ライプ(絵画)

Sir John Everett Millais, “Cherry Ripe (1879)”

ペネロペ・ブースビーに扮した少女をモデルにした絵画(1879年)。
タイトルは、後述のロバート・へリックが描いた詩に由来する。
物静かな少女のそばに、赤く熟れたサクランボが描かれている。

ペネロペ・ブースビー(1785年 – 1791年)は、イギリス芸術において有名な少女。
5歳という幼さで亡くなった少女の肖像画は、ミレーやルイス・キャロルなどに影響を与え、ロマン主義時代の「無垢」の象徴でもあった。

チェリー・ライプ(詩)

トマス・キャンピオン(1567 – 1620年)も同じタイトルの詩を発表している。
※ ripe:「熟れている」「赤くてふっくらしている」という意味がある。唇の形容にも使われる。 

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