頬杖をつく

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概要

頬杖は、テーブルや机に肘を立てて、手の平やこぶしに顔(主に顎や頬)の乗せて支える仕草です。
腕が杖のようになることから「頬杖」と呼ばれます。

表記:ほお杖、ほおづえ、つらづえ

イメージや象徴

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頬杖をつくことには、「退屈」「不満」「憂鬱」「眠気」「物思いにふける」「自然体」「行儀が悪い」「愛おしい」「構ってほしい」などのイメージや象徴的な意味があります。

退屈、興味なし

頬杖をつくことは、「退屈」や「興味なし」といったイメージと結びつくことがあります。

頬杖は、待ち時間が長く退屈している時や、目の前のことにあまり関心がない時などに見られる仕草です。

Extracting the stone of madness, Hieronymus Bosch, 1494 – 1516

ヒエロニムス・ボスの『愚者の石の切除』に登場する「頬杖をつく修道女」は、頭上に赤い書物を載せテーブルに肘をつき、退屈そうに手術を眺めています。

患者の頭から石を取り出すというテーマは、16世紀から17世紀にかけてネーデルラントの絵画や文学に登場しました。
当時の人々は、愚かさや狂気を脳の中の石と結びつけて考えていたため、愚かな人は「頭に石が入った」かのように見なされていました。
これは比喩的な表現でしたが、一部の人たちは外科手術で「愚かな石」を取り除き、自由になれると信じていました。
しかし、この考えは当時からインチキ療法と見なされており、この修道女もあきれたような表情で見ています。

不服、不満

頬杖をつくことは「不服」や「不満」をイメージさせる場合があります。
目の前の物事や状況、もしくはこれから起こる事に対して満足していない様子を表す仕草でもあります。

憂鬱、不安

頬杖をつくことは、「憂鬱」や「不安」といったマイナスな感情や心境を表現することもあります。

頬杖をつく様子は内省的であったり、何かに悩まされている様子や、未来への不安や心配を抱いていることなどを暗示することがあります。

La Mélancolie, Louis-Jean-François Lagrenée, 4th quarter of the 18th century
Maria Maddalena come la Malinconia, Artemisia Gentileschi, 1622 – 1625

イタリアの女性画家アルテミジア・ジェンティレスキの『メランコリーのマグダラのマリア』では、「メランコリー(憂鬱)」の擬人化としてマグダラのマリアが描かれています。
アルテミジアは1611年に性的被害に合い、このマリアは彼女の精神状態も表現されているという説があります。
衣服が落ちて左肩が露出し、泣き疲れたかのように赤くなった目が印象的です。

眠気、疲労

頬杖をつくことは、「眠気」や「疲労」といったイメージとも関連があります。

体力や気力を消耗して休んでいる様子や、つい寝入ってしまった様子を表す仕草でもあります。
長時間の作業や単調な作業の後にもこのポーズが見られることがあります。

A Woman Asleep, Johannes Vermeer, 1657

解析によって、ヨハネス・フェルメールの『眠る女』は、扉の向こう側(奥の部屋)には女性を見つめる男性と犬が描かれ、のちに塗りつぶされていたことが判明しています。

この絵画にはいくつかの説があります。
1つ目は、17世紀オランダ画家に人気のテーマであった「サボっている使用人」(この絵画の場合は眠っているメイド)を描いたという説。
2つ目は、豪華な服を着ていることから女性は愛人であり、この家の男性との関係に悩んでいるという説。
3つ目は、女性はこの家の女主人であり、夫や家に対して何かしらの憂鬱を抱いているという説。
他にも様々な説があります。

考え事をする、物思いにふける

頬杖をつくことは、「考え事」や「物思いにふける」といったイメージと結びついています。

深く考え込んだり、集中して何かを考えたりするときに見られるポーズです。
頬杖をついて思索や内省にふける様子や、物事を熟考する様子を表す際に使われることがあります。
このポーズは、静かで内向的な雰囲気を持ち、視線を一点に落ち着かせることで集中力を高める役割も果たします。

Melancholy, Edvard Munch, 1891

エドヴァルド・ムンクの『憂鬱』では、海岸線の端で頬杖をついて物思いにふける男性が描かれています。
ムンクの友人であるヤッペ・ニルセンが巻き込まれた不幸な出来事にインスピレーションを受けたと言われており、ムンクはこのテーマ(海岸線の端で頬杖をついて物思いにふける男性)で他にもいくつかのバージョンを描いています。

リラックス、自然体

頬杖をつくことは、「リラックス」や「自然体」といったイメージとも結びついています。
このポーズは一般的にリラックスした状態で、自然な表情や様子を演出するのに適しています。

肖像画やプロフィール写真でもよく見られるポーズであり、頬杖をつくことで表情が柔らかくなり、ポージングが自然に見え、被写体の特徴が引き立ちます。

ポートレートやプロフィール写真でこのポーズが好まれる理由は、以下の点が理由として挙げられます。

  1. 自然な表情: 頬杖をつくことで硬直感がなくなり、表情が自然であるように見えます。
  2. リラックス感: リラックスしたポーズで、被写体がありのままでいるような印象を与えます。
  3. 親しみやすさ: リラックスした表情や自然なポーズで、見る人に対して親しみやすさを感じさせます。
  4. 視線誘導: 手を顔に添えることで、見る人の意識を顔に向けさせることができます。

頬杖をつくポーズは個人の性格や雰囲気を引き出すことができ、モデルをより魅力的に見せる効果があります。

Portrait of Dr. Gachet, Vincent van Gogh, 1890

行儀が悪い、だらしない

一般的に、頬杖をつくことに「行儀が悪い」や「だらしない」といったネガティブなイメージはあまりありません。 むしろ、普通に見られる自然なポーズの一つとされています。

あまりにもだらしない姿勢は避けるべきですが、一般的な社交場やカジュアルな場では、頬杖をつくとは自然なポーズとして受け入れられます。

ただし、状況や場面によっては、あまりにもリラックスした姿勢は不適切に感じられることもあります。

日本においては、頬杖をつきながら授業を受けたり、仕事をしたり、会議に参加することは「行儀が悪い」「だらしない」と受け取られ、非常識とされることが多くあります。

また、頬杖をつくことで、姿勢が悪くなる(背骨が曲がる)、顎がゆがむ、歯並びが悪くなる、頬の筋肉がたるむなど、頬杖は身体に影響する悪習慣として指導・矯正されることもあります。

愛おしい、構って欲しい

親しい人の前で、相手を見つめながら頬杖をつくことは、特別なイメージがあります。

相手を見つめながら頬杖をつくことは、相手のことを「愛おしい」と思っており、相手のことを「ずっと眺めていられる」状態であるというイメージがあります。

一方で、不機嫌もしくは悲しい表情で相手を見つめながら頬杖をつくことは、相手が他のことに熱中しており、自分が退屈で寂しくて「構ってほしい」という気持ちであるというイメージがあります。

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